足を運ぶほどに好きになっていくこの町の魅力って何だろう?
ちょっと立ち止まって考えてみよう。


大岩・安東周辺の地域を回って、そこに暮らす人々と接していると、なんだかとても穏やかな気持ちになります。「なんでだろう」、と考えて気づいたこと、それは、出会う人たちが口を揃るようにして「ここは本当に住みやすい場所だ」とお話をしてくれたことです。ある日、城北公園で出会った井戸端会議中のお年寄りたちは、「県外から転勤でやってきて、場所がいいからそのまま居着いちゃう人もいるよ」、「図書館も学校も公園も、なんだって揃っているのがいいね」と、自慢げに教えてくれました。加えて大岩という場所は、その名の通り、大きな岩盤の上に広がる地域なので、地震にも強いのだとか。ちなみに安東は、「安倍川の東側にある地」ということで安東になったと言われています。
でも、なぜそんなに住みよいのか?今回は、地域を巡ってみて感じた、この地の自然の豊かさをヒントに、「人の集うところに自然あり!」ということで、自然にスポットをあててこの地域のことを少し紐解いてみましょう。

通学する学生の側に

安東二丁目とお隣の西千代田町の間の細い道、その隣を寄り添うように流れる小川があります。その名も「十二双川(じゅうにそうがわ)」。安倍川の伏流水が涌き流れ、巴川とつながっています。名前の通り、かつては船が横に十二双も並ぶほどの幅を持ち、浅間神社の石鳥居の石材や、駿府城築城寺の建設資材を運搬した運河だったといいます。現在ではコンクリート舗装され、川の大半は道路の下を流れているため影を潜めています。しかし、なんとこの「十二双川」、実は水質が抜群に良いのです。それは飲料水に近いほどで、ザリガニやヤゴなどの生き物も生息しています。
この川の環境改善は、「水のまち静岡をつくる会」という団体によって、行われたということです。川底に青々と生い茂っている藻は、この団体によって植えられたものです。また、子どもたちが川の生物を捕って楽しむ見学会も過去には行われています。
きれいな水の流れを側に感じることができると、心が落ち着きます。平日の朝は、自転車で走り抜ける高校生たちを送りだし、夕方には疲れて帰ってきた彼らを迎えてくれます。川の流れもそれに合わせて早くなったり遅くなったりしているようです。「十二双川」が、これからも変わらずに、学生の青春を見守りつづけてくれる川であることを願います。

河合元市長が撮影した満開のなんじゃもんじゃ。

地域の財産
「なんじゃもんじゃ」

遊んでいる親子、おしゃべり仲間とゆったり過ごすお年寄り、部活動に励む学生たち。そんな人々で賑わう城北公園は、花時計をはじめ、大きなグラウンドや遊具が公園を訪れる人々を迎えてくれます。中でも注目すべきは珍木ヒトツバタゴ、別名「なんじゃもんじゃ」の木です。5月になると、小さな白い花を枝いっぱいに咲かせて、その美しい姿で人々を魅了します。モクセイ科に属するこの木の自生地は、長崎県対馬市や岐阜県瑞浪市などがありますが、城北公園の「なんじゃもんじゃ」は人の手で植えられたものです。5月の素敵な彩りを楽しめるようになった人々の裏には、実は仕掛人がいるのです。
時を遡ること31年前、安東出身で元静岡市長の河合代悟氏(享年78歳)が、ヒトツバタゴの木に出会い、「木に蕾が積もったような白い花の美しさ」に感銘を受けました。そこで、河合氏は奔走し、瑞浪市や明治神宮外苑から苗木を譲り受けて城北公園に植える運びとなったのです。その数100株!日当りの良い公園内は苗木が育つのには絶好の環境で、育ちにくいと言われているヒトツバタゴのほとんどがすくすくと成長し、今では86本の木が毎年満開の花を咲かせるまでになりました。河合氏は、その後「なんじゃもんじゃの会」を発足し、木の保護や普及の活動もされていたとのことです。残念ながら、本会はもう残ってはいませんが、今でもそのときの仲間は木の下でお花見などの集いを開くこともあり、つながりは生き続けています。

「なんじゃもんじゃの里」スタッフの皆さん。真ん中右側が杉村氏。


S型デイサービス
「なんじゃもんじゃの里」

一方で、「なんじゃもんじゃ」の名前を掲げる次の団体が3年前から活動をはじめています。その名も「なんじゃもんじゃの里」。安東地区では一番新しい、4つ目のS型デイサービスです。このグループの立ち上げを先導したのが、民生委員を2期務めあげ、現在は本デイサービスの運営責任者である杉村興司氏です。民生委員時代、地域からの「城北公園へ集まるお年寄りの方たちにもっと楽しく暖かい場所を提供したい」という声を吸い上げ、話し合いを重ねてこのグループの開設が実現しました。開設式には河合元市長から激励のメッセージが贈られたそうで、「なんじゃもんじゃ」を通じて地域の結束がより強くなっているのを感じます。会員数33名、スタッフ15名で構成されたアットホームなグループです。月2回、第1と第3水曜日にイベントを設けて集会を開いています。ハーモニカの楽団を招いて演奏会を開いたり、最近ではマイナンバー制度についての講習会を開くなど、とても充実しています。杉村氏は、「お年寄りの方たちが楽しそうに参加している姿を見るのが何よりのやりがい」と考えており、グループの活動に意欲的な姿勢を示しています。S型デイサービス「なんじゃもんじゃの里」は、純粋純白な花をつける「なんじゃもんじゃ」の木のように素敵な会でありたいという杉村氏の想いが込められているのです。
1つの公園でこんなに多くのヒトツバタゴを見られる場所は全国でも珍しく、県外から遊びに訪れる人もいるそうです。「なんじゃもんじゃ」には人を呼び寄せ、人の輪を広げてくれる不思議な力が宿っているのかもしれません。
残念ながら今は木の葉も落ちてちょっぴり寂しい雰囲気です。今年も寒さの厳しい冬やってきますが、我らが「なんじゃもんじゃ」は風香る爽やかな季節に向けて、ひっそりと芽吹く準備を初めていることでしょう。
こうして人々に愛されているこの地域は、それ故に、ますます彼らの手によって大切にされ、素敵な場所になっていくのではないでしょうか。素敵な町づくりの秘訣が、少し分かったような気がします♪